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神戸地方裁判所 平成7年(ワ)731号 判決

反訴原告

田下雅広

反訴被告

出崎千也

主文

一  反訴被告は、反訴原告に対し、金六七三万六六九八円及びこれに対する平成五年六月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  反訴原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その一を反訴原告の負担とし、その余を反訴被告の負担とする。

四  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

反訴被告は、反訴原告に対し、九九六万〇三一九円及びこれに対する平成五年六月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、出会い頭衝突により傷害を負い、後遺障害が残つたとして、反訴被告に対して民法七〇九条により損害賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実等

1  本件事故の発生

(一) 日時 平成五年六月五日午後一〇時四〇分頃

(二) 場所 神戸市中央区御幸通三丁目二番一八号先交差点(以下「本件交差点」という。)

(三) 加害車 反訴被告運転の普通貨物自動車(以下「被告車」という。)

(四) 被害車 反訴原告運転の普通乗用自動車(以下「原告車」という。)

(五) 態様 出会い頭衝突

2  責任

反訴被告は、本件事故当時、交通整理の行われていない本件交差点を通過するに当たり、酒気を帯び、一時停止の標識があるのに一時停止しないで同交差点に進入したものであるから、民法七〇九条により、本件事故により反訴原告が受けた損害を賠償する責任がある。

二  争点

1  反訴原告に後遺障害が残つたか否か。

反訴原告は、平成六年一一月三〇日、左後頭部痛、項頸部痛、左頸部より左背部への放散痛の残存、左上肢の脱力感、痺れ感の自覚症状があり、頸椎後屈運動制限、第四、第五頸椎の棘突起の骨折の骨癒合、左項頸部筋硬結、左上肢、上腕二・三頭筋腱反射の亢進の他覚症状を残して症状固定し、自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表一四級一〇号(以下単に「何級何号」とのみ省略する。)に該当する旨主張する。

反訴被告は、本件事故による反訴原告の自賠責保険の後遺障害の認定は非該当とされており、仮に後遺障害の症状があるとしても、反訴原告は、本件事故の前と後に交通事故に遭遇しているから、同症状と本件事故と間に相当因果関係はない旨主張する。

2  過失相殺

3  反訴原告の損害額

第三争点に対する判断

一  争点1について

1  証拠(甲四ないし二八、乙二、三ないし一二の各一・二、一七、一八、二四・二五の各一ないし八、三〇、三一、反訴原告及び反訴被告本人、弁論の全趣旨)によると、次の事実が認められる。

(一) 反訴原告は、本件事故により頸椎々間板損傷(脊髄症)、腰部捻挫、右根性座骨神経痛及び外傷性右股関節炎等の傷害を受けた。

(二) 反訴原告は、右治療のため次のとおり入通院した。

(1) 平成五年六月五日神戸赤十字病院通院

(2) 同年六月七日から同年一一月一〇日まで一五七日間村田整形外科麻酔科入院

(3) 同年一一月一一日から平成六年一一月三〇日まで同外科同科通院(実治療日数二三二日間)

(三) 反訴原告の右受傷は、平成六年一一月三〇日、症状固定した。

その当時の後遺症状は、左後頭部痛、項頸部痛、左頸部より左背部への放散痛の残存、左上肢の脱力感、痺れ感、頸椎後屈運動制限、第四、第五頸椎の棘突起の骨折の骨癒合、左項頸部筋硬結、左上肢、上腕二・三頭筋腱反射の亢進があつた。

反訴原告は、自賠責保険に後遺障害の認定申請をしたが、非該当とされた。

(四) 反訴原告は、現在、左手の痺れ感が残り、首を左に曲げるのがつらく、天気が悪いと首に痛みが走ることがある。

(五) ところで、反訴原告は、本件事故前の昭和六〇年二月二日、交通事故に遭遇し、昭和六一年七月三一日に症状固定し、頸部、腰部及び右肩胛部の神経症状により一四級一〇号の後遺障害の認定を受けた。

また、反訴原告は、本件事故後の平成六年七月二日、自動二輪車を運転して交差点を直進中、左折する乗用自動車と衝突して受傷した。

2  右認定によれば、反訴原告は、現在でも頭痛がしたり、手が痺れたりすることがあるようであるが、本件全証拠によつても、本件事故につき、自賠責保険に規定の後遺障害に該当する後遺障害が残つたことを認めるに足りる明確な証拠はないといわざるをえない。

二  争点2について

1  証拠(甲一、二、乙一、一四、一五、一六の一ないし三、一九、反訴原告及び反訴被告各本人、弁論の全趣旨)によると、次の事実が認められる。

(一) 反訴原告は、本件事故直前、原告車を運転し、時速約三〇キロメートルの速度で車道幅員七・三メートルの東西道路を西進し、時速約一五キロメートルに減速して見通しの悪い本件交差点に進入し、直前に迫って被告車を発見し、それと同時位に同車の前部と原告車の左側とが衝突した。

(二) 反訴被告は、本件事故直前、酒気を帯びた状態で被告車を運転し、中央線が引かれていない車道幅員四メートルの南北道路を制限速度時速三〇キロメートルのところ時速約四五キロメートルの速度で東進し、本件交差点手前で一時停止の標識を認めながら時速四〇キロメートルの速度に減速しただけで同交差点に進入しようとし、一一・五メートル右前方の原告車を発見し、急ブレーキをかけたが、一〇・一メートル前進した地点で、やはり四・五メートル前進した原告車と衝突した。

2  右認定によれば、反訴原告は、減速したものの、左右の確認を十分にしないまま信号機の設置されていない本件交差点に進入したものであり、見通しが悪かつたとはいえ、もつと早く被告車を発見できるところ、同車を衝突する直前まで発見できなかつたのであるから、左右の確認を怠つた過失があるといわざるをえない。

しかし、反訴被告は、前記のとおり酒気帯び及び一時停止義務違反という重大な過失があり、その他本件に現れた一切の諸事情を考慮し、反訴原告と反訴被告の過失を対比すると、その割合は、反訴原告が一〇パーセント、反訴被告が九〇パーセントとみるのが相当である。

三  争点3について

1  治療費(請求及び認容額・五七五万七六四九円)

争点1掲記の各証拠によると、反訴原告が本件の治療費として頭書金額を要したことが認められる。

2  入院雑費(請求額・一八万九六〇〇円) 一八万八四〇〇円

反訴原告が本件事故により一五七日間入院したことは前記のとおりであるところ、一日当たりの入院雑費は一二〇〇円が相当であるから、入院雑費合計は一八万八四〇〇円となる。

3  休業損害(請求及び認容額・三七三万九三四八円)

証拠(乙二三、二六、反訴原告本人、弁論の全趣旨)を総合すると、反訴原告は、本件事故当時、運転手として勤務していたが、本件事故による入通院加療のため、平成五年六月七日から平成六年一月四日までの二一二日間、勤務会社を欠勤し、その間の給与を全く受けることができなかつたこと、反訴原告の本件事故前三か月間(平成五年三月ないし五月分)の給与合計額は一四八万三八六五円であり、一日当たり一万六一二九円(円未満四捨五入、以下同)となること、反訴原告は、右欠勤のため、平成五年度冬期一時金三二万円の支給を受けることができなかつたことが認められる。

右認定によれば、反訴原告主張の給与喪失分三四一万九三四八円及び賞与減額分三二万円の合計三七三万九三四八円を相当な損害として是認できる。

4  逸失利益(請求額・八〇万三八八一円) 〇円

前記のとおり、反訴原告の後遺障害を認めることはできないから、反訴原告主張の逸失利益を認めることはできない。

5  慰謝料(請求額・二九〇万円) 二〇〇万円

反訴原告の傷害の内容・程度、現在の症状並びに入・通院期間その他本件に現れた一切の諸事情を総合考慮すると、原告が本件事故によつて受けた精神的慰謝料は二〇〇万円をもつて相当する。

6  原告の前記損害額合計 一一六八万五三九七円

7  過失相殺

本件事故につき反訴原告にも一〇パーセントの過失があることは前記のとおりであるから、前記損害合計の一〇パーセントを減ずると、その後の金額は一〇五一万六八五七円となる。

8  損害の填補

反訴原告が本件事故による損害の填補として四三三万〇一五九円の支払を受けていることは当事者間に争いがないから、これを右損害金から控除すると、その後の金額は六一八万六六九八円となる。

9  弁護士費用(請求額・九〇万円) 五五万円

本件事案の内容、審理経過及び認容額その他諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、五五万円が相当である。

三  まとめ

以上によると、反訴原告の本訴請求は、損害金六七三万六六九八円及びこれに対する本件事故の日である平成五年六月五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却することとする。

(裁判官 横田勝年)

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